小さな子ども3人を連れての5人家族での移動だけでも、正直とても大変です。
そこに障害のある子どもやペットまで一緒となると、気を配らなければならないことが一気に増えて、「どうやって移動しよう…」と考えるだけで気が重くなってしまいますよね。
わが家もまさにその状況で、知的障害のある小学生の息子を含む子ども3人と、セキセイインコ1羽を連れて、東京から北海道へ転居することになりました。
そのとき私たちが選んだのは「フェリー」でした。なぜフェリーを選んだのか、そして実際に利用して感じたメリット・デメリットについて、体験談も交えてお伝えします。
フェリーを選んだ理由
三男の発達の特性(癇癪や大声)と飛行機の制約
障害のある三男にとって、移動時間は短いに越したことはありません。
そのため本来なら、飛行機が最有力の移動手段になります。
けれど、彼の発達の特性を考えると、それは現実的ではありません。
大きな理由のひとつは「過敏性」です。
人見知りや場所見知りはもちろん、気圧の変化や大きな音にも強い反応を示します。
飛行機は離着陸の際にどうしても大きな変動があります。
その瞬間、ほぼ確実にパニックを起こしてしまうことが予想できました。
パニックになった時、本来なら静かに落ち着ける「クールダウンの場所」が必要ですが、機内にはありません。
また、機内では離着陸時や乱気流発生時などはシートベルト着用が必須であり、まさにパニックに陥りやすいタイミングに押さえつける必要があります。パニック時に刺激を与えてしまうとさらに衝動が強くなったり、落ち着くまでに長い時間を要するようになります。周囲の乗客や乗務員の方々に迷惑をかけることを考えると、私たちにとっても耐え難い状況になるのは明らかです。
さらに空港までの道のりも公共交通機関を使わざるを得ず、その段階からすでに大きなハードルがあります。
正直、想像しただけでぐったりしてしまいました。
ペットのセキセイインコの体調面を考えて
当時、わが家のセキセイインコは3歳。今よりもさらに若く、元気いっぱいでした。
とはいえ、小鳥はとても繊細な生き物です。
温度や湿度、音の変化はもちろん、環境の違いや飼い主と離れる寂しさからくるストレスで、一気に体調を崩すことがあります。
飛行機の場合は、それに加えて気圧の変化や大きな振動も避けられません。
もちろん、問題なく過ごせるインコさんもいると思いますが――。
わが家のインコは特に体調を崩しやすいタイプで、ちょっとしたことで弱ってしまう繊細な子でした。だからこそ、飛行機での移動はどうしても不安が大きかったのです。
過去のフェリー旅行が子どもにとっても楽しい思い出だった

この移動の数年前、家族旅行で北海道へ行ったときに、初めてフェリーを利用しました。
(この時は旅行だったため、ペットのセキセイインコは動物病院のペットホテルサービスで預かっていただきました。)
それまでは「フェリーって長距離トラックの運転手さんが使うもの」くらいのイメージしかなく、東京から北海道へ移動する便利なルートがあることも、正直まったく知りませんでした。
でも当時は車での移動を前提にしていたので、「ものは試し!」と新日本海フェリー「らべんだあ」(新潟―小樽航路)に思い切って乗船してみることに。
結果は大正解。想像以上に快適で、家族みんなが感動の連続でした。
レストランでは、大きな窓から広い海を眺めながら食事ができ、まるで海の上のリゾート気分。
メニューには北海道らしい料理も並び、子どもが喜ぶ定番メニューも充実。しかも価格は街のレストラン並みで、コスパも抜群でした。
さらに驚いたのはお風呂。なんと露天風呂があり、海を眺めながら入浴できるんです。これには親の私たちも大感激。
宿泊したのは「ステートA和洋室」。当時は子どもたちがまだ小さく、全員で一部屋に泊まれましたが、布団もふかふかで、水回りも清潔。広さも十分で、とても快適に過ごせました。
そして夏の夕暮れ、オープンデッキから眺める景色は格別。海風と夕日のコントラストに包まれて、家族みんなが笑顔になった瞬間を今でも鮮明に覚えています。
フェリーでの快適ポイント
個室で過ごせる、ほぼ「移動するプライベート空間」

そして何よりも最高だったのは、この「個室での移動」ができることでした。(個室は別途予約&費用が必要です)
流れとしてはシンプルです。
マイカーでフェリーターミナルまで移動し、乗船手続きを済ませたら、車ごと船に乗り込みます。
あとは船内の駐車スペースから個室へ移動するだけ。
一度部屋に入ってしまえば、トイレやシャワーもついているので、食事のとき以外は船を降りるまで部屋で過ごせます。
まさに「動くプライベート空間」といった感覚でした。
個室は防音性が高く、隣室の音は全く気になりません。むしろ船自体の環境音にまぎれて、三男が癇癪を起こしても周りを気にせず、落ち着くまで待つことができました。これは本当にありがたかったです。
部屋につくと三男はすぐに下着になってくつろぎ、おもちゃを広げて遊ぶなど「自宅モード」に切り替え。
そんなふうに思いっきりリラックスできたおかげで、約18時間の船旅も驚くほど落ち着いて過ごすことができました。
レストランでの食事は三男対応のため時差で利用

食事は、わが家にとって大きな課題のひとつです。
三男は偏食が強く、人見知り・場所見知りもあるため、外食がとても苦手なのです。
とはいえ、旅先で「炊きたての白ご飯」を食べようと思えば、レストランを利用するしかありません。
そこで考えたのが「時差で食事をとる作戦」でした。
まさに、バイキング形式の食事だったからこそできた作戦でした。
5人家族を2人と3人のグループに分け、順番に食事をとるのです。
まずは次男と私が先にレストランへ。ある程度食べ終わったら、夫と長男、三男を電話で呼びます。
私は三男が食べられそうなものをあらかじめ用意しておき、三男が食べている間に夫と長男が料理を取りに行きます。
二人が戻ってきたら、今度は私が追加で三男の食事をとりに行きます。
そして、三男がぐずり始めたタイミングで、デザートまで食べ終えた次男と三男、そして私の3人が先に部屋へ戻る流れ。
部屋はレストランのすぐそばを確保していたので、移動もスムーズでした。
この方法なら、家族全員がしっかり食事をとれるし、三男も長く我慢せずにすむので、結果的にみんながハッピーになれました。
船内のお風呂・アメニティ・スマホ環境
船内個室のお風呂については、ユニットバス(シャワーのみ)がありました。
ただ、三男はこのタイプの浴室を初めて見ることもあり、強く拒否してしまい入浴は断念。幸い暑い季節ではなかったため、汗も少なく、清拭で対応することにしました。
清拭とはいえ、シャワー室があったおかげで作業しやすく、非常にありがたかったです。
一方、パブリックスペースには展望浴室とサウナがあり、家族で順番に時差で利用しました。とても清潔で気持ちよく、海を眺めながら入るお風呂は格別でした。
アメニティも充実していて、部屋にはボディータオル、シャンプー、コンディショナー、ボディーソープ、歯ブラシセット、綿棒が1人分ずつセットに。普通のホテルよりもワンランク上の品質で、とても嬉しかったです。
ただし、通信環境には注意が必要です。
陸から離れた場所を航海している時のスマホはほとんどつながらず、さらに船内のWi-Fiサービスも残念ながら2022年12月で終了していました。
そのため、事前にリサーチをしてDVDやおもちゃを持ち込みました。電波がないぶん時間を持て余すこともありましたが、準備していたおかげで大きな困りごとにはならずに済みました。
フェリーにはペットに優しい設備がある
フェリーでのセキセイインコ預かり事情

三井商船フェリーには、ペットに優しい設備が整っています。
ウィズペットルーム(ペットと一緒に泊まれる客室)、ペットルーム(預けられる専用スペース)、ドッグラン、ペットカートまで完備。ペットと一緒に旅行したい方や、私たちのようにペットを連れて引っ越しをする家族にとって、本当にありがたい移動手段です。(ここまでペットに優しい交通手段、なかなかないですよね!)
今回わが家のセキセイインコは、ペットルームに預けることにし、普段使っているケージのまま連れてきました。
予約していたのは中型ケージ(高55cm×幅53cm×奥行72cm、電話予約のみ・2025年9月時点で3,500円)。
サイズは大丈夫!と思っていたのですが、なんと入口が狭く、インコのケージが中に入らないというトラブルが…。
そこまで考えが及ばず、反省しました。
しかし、ここでスタッフさんが神対応。
受付のお姉さんがカウンター近くで預かり、見守ってくださることになったのです。丁寧に声をかけていただいたおかげで、我が家のインコも寂しくならずに過ごせたようで、下船前に迎えに行ったときには元気な姿を見せてくれました。本当に感謝しかありません!
ちなみにペットルームは、お世話や様子を見に行きたい時、夕方便ならAM2~7時を除いていつでも行けるのも安心ポイントです。
わが家がペット同室の「ウィズペットルーム」を選択しなかった2つの理由
ペットと同じ部屋で泊まれる「ウィズペットルーム」は、いつでもお世話ができるし、ペットも飼い主も寂しくならない、とても嬉しいシステムです。
しかし、わが家の場合はデメリットが2つあり、利用を断念しました。
・1つ目は、三男への対応のため「和室」が理想だったのですが、ウィズペットルームは洋室(ベッドルーム)しかなかったこと。
・2つ目は、わが家が5人家族であるためです。ペットはセキセイインコ1羽だけですが、5人が一緒に泊まれる部屋はなく、2部屋を隣同士でとる必要がありました。ところがウィズペットルームを2部屋隣り合わせで取ると、費用が大幅に増えてしまいます。
ちなみにウィズペットルームは1部屋あたり2万円前後の追加料金がかかります。
引っ越し自体に大きな費用がかかる中で、このプラス料金は我が家にとって無視できない判断材料でした。
フェリーを移動手段として選択する際の注意点
今まで、フェリーでの移動のメリットばかりをお話しましたが、もちろんデメリットもあります。
フェリーは天候の左右を受けやすい
まず大きいのは、天候の影響を受けやすいことです。
どの交通機関でも天候による遅れや運休はありますが、フェリーの場合は「波」の影響も加わります。特に冬の日本海側は荒天が多く、欠航の可能性が高まります。
そのため、もし欠航になった場合の代替手段を事前に考えておかないと、非常に慌てることになります。特に、急な変更に弱い障害児やペットがいる場合は、細心の準備が必要です。
また、フェリーは夏と冬で運航状況が異なるため、早めに運航情報を確認しておくことも大切です。
実際に私たちも、最初は前回利用して快適だった「新日本海フェリー」を予定していましたが、ちょうど移動日は欠航中で断念。結果的に「商船三井フェリー」を選ぶことになりました。
乗船前に余裕をもって到着する必要がある
フェリーに乗船する際は、フェリーターミナルへの到着時間に注意が必要です。
- 自動車で乗船する場合 … 出航の2時間15分前まで
- 徒歩で乗船する場合 … 出航の1時間45分前まで
と、かなり早めに到着していなければなりません。時間には余裕をもって行動することが大切です。
また、自動車で乗船する場合は注意点があります。
運転手は車でそのまま船内の駐車スペースへ移動しますが、同乗者は徒歩乗船の方と同じルートから乗船しなくてはいけないのです。
ただし、公式HPには
「運転手と別々のご乗船が難しい場合は窓口にてご相談ください」
と明記されています。事情がある場合は、遠慮なく相談しましょう。
ちなみに、わが家も窓口で相談したところ、家族一緒に乗船することができました。自動車で極力過ごしながら、家族で協力して無事に乗り込むことができ、とても助かりました。
長時間のフェリー乗船は船酔い対策が必要
重度の船酔い体質の方にとっては、やはりフェリー移動は厳しいかもしれません。別の移動手段を検討した方が安心です。
わが家でも、夫と長男、次男がもともと車酔いしやすい体質のため、とても心配していました。
そこで活用したのが酔い止め薬です。効能時間を確認しながらコンスタントに服用することで、家族全員が快適に過ごすことができました。
酔い止め薬には便利なポイントがあります。
- 24時間効果が持続するタイプがある
- 乗り物酔いが始まってからの服用でも効果がある
そのため、予防としても対処としても役立ちます。
ただし、注意点もあります。
酔い止め薬は年齢ごとに使用の制限があるため、必ず注意書きを確認することが大切です。
- 16歳以上用は、大人が服用するには少ない錠数で済みますが、子どもは服用できません(取り違えに要注意)。
- 子ども用は大人も服用可能ですが、その場合は多めの錠数が必要になり、割高になります。
まとめ
障害のある子どもやペットを連れて東京から北海道へ引っ越すとなると、不安や負担が大きいものです。
わが家は飛行機ではなくフェリーを選んだことで、個室で安心して過ごせ、スタッフのサポートにも助けられ、家族みんなが落ち着いて移動することができました。
確かに、フェリーには天候や費用、船酔いといったデメリットもあります。
けれど、事前の準備と工夫次第で快適に過ごせるため、障害児やペット連れで長距離移動を考えている方には、フェリーはとても有力な選択肢だと感じています。
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